初代マスタングといえば、経営が傾いたフォードを立ち 直らせたほどアメリカで大ヒットした車。当時のアメ車と してはちょっと小柄で大馬力のエンジンを積み、「男と女」 「ブリっト」など数々の映画にも出てきました。でも当時 は1ドル約3百円の時代ですから、日本人には高嶺の花。 余談ですが、当時の007の映画で1千万の高級新車を 潰したと話題になりましたが、今のレートだったら3百万 の普通セダン(物価も違いますが)。 依頼されたマスタングはその3代目。オイルショック後に デビューしたので、ボデイもエンジンも小さくなりました。 価格が下がり、円高になってきたこともあって、日本でも かなり売れたそう。そういう私も乗ったことがあります。 映画で見たマスタングは、タイヤから白煙を上げて猛 ダッシュするイメージでしたがこの車はまったくの別物。 なにしろ小さくなったとはいえ、1t以上もある車体に たった100馬力ほどのエンジンですから、ホイルスピン どころか碓氷峠で軽自動車に抜かれました。 それはともかく、このプラモデルも年季もので、オーク ションでかなりの高額で競り落としたそうです。 今回は1/16と大スケールで、ボデイが大きいから塗装が 大変。それに30年前の技術なので、ちゃんと作れるか どうか不安です(いまはちゃんと作れて当たり前、むかし はちゃんと作れないのが当たり前)。 当時のプラモにはチューブの接着剤が付いてました。 外国製は別売だったので、これも日本の気配りだったの かも。ただ、チューブの接着剤はベチョッと出るので、き れいに作れない元凶でもありました。 芸術家は創作が始まるまで時間がかかります。半月ほど 手付かずで、いよいよ重い腰を上げました。 当時はオール可動が全盛なので、スケールモデルとして 見るとつらいものがあります。ドアやボンネットは開閉 するため、仮組みすると異常に隙間が開いてます。頼ま れたわけではないけど、それが許せなくてドアを拡張し 隙間を無くしました。 プラバンを貼って整形します。 塗装前にボディ全体に細かいサンドペーパーをかけ、 ボンネット・ドア・バンパーなど同じ色に塗る部品を付 けておきます。この工程は以前見学した自動車工場と一緒。 実車の屋根は白のレザーですが、白は隠蔽力が弱いので、 下地の色を活かすためにマスキングしておきます。 実車の色はメタリックで、光の加減で違う色に見える嫌 な色。当然市販のカラーではないので自分で調合します。 オリーブ色は黒に黄色を混ぜます。にわかに信じられま せんが、やってみるとあら不思議。簡単に作れるから 軍用車に多く使われたのかもしれません。 この色が・・・ こんな色に。プラモだって頭使います。 これをとりあえずエアブラシで塗ってみました。 室内で塗装をすると、塗料のチリと臭いが大変です。 今回は塗装面が広いので、排気力の強い塗装ブースを購 入。経費は実費をもらいますが、これは請求できないなー。 面積が広いと均一に塗るのが大変。せっかくの塗装が台 無しにならないように気を使います。 我ながらきれいに塗れました。でも深みも輝きもない。 よってシンナーで落としてやり直しです。 このあと色の配合を変えたり、メタリックやクリアーを 混ぜたりして試行錯誤。塗っては剥がし塗っては剥がしを 繰り返し、気に入った色になるまで2週間かかりました。 だから今度車を買うときは、赤か白か黒にしてくれって 言ったのに。脳が溶けたらどうしてくれる。 乾く間にエンジンルームを制作。あんまりあっさりしてる ので、写真を見ながら部品を捏造してコードやパイプを適 当に配線しました。余計なことをすると手間がかかるのに お節介なサガでしょうか。 インテリアも組み立て、色を塗ります。 塗装が十分に乾いてから、窓枠やマークの色入れを。 実物のタイヤは白リボンですが、なぜかスポーツタイプ のタイヤ。メーカーなどの白文字を入れました。 最後に窓ガラス(もちろんプラ)を入れましたが、表面は 傷だらけで、カーブがボディと合わないなど最悪です。 仕方なく、瞬間接着剤で無理やり接着。瞬着は透明プラ を曇らせるので要注意です。 最後に3種類の模型用コンパウンドで磨き上げました。 横のラインは発注者のこだわりで是非入れて欲しいと 言われました。ところが同封のシールは、水に入れたら 溶けちゃいました。そこでテープを細く切って貼りまし た。 せっかく完成したのに色褪せさせるのは辛いので、こ のままで納車することに。 今回スケールが大きいので、サービスでナンバーを付け てあげることにしました。それが予想外の大事故へ。 納車前日にナンバーを付けていると、手が滑って落とし てしまいました。幸いボディに傷はつかなかったものの、 後ろのサスペンションを破損。もう発狂です。 なんとか瞬間接着剤でガチガチに固めてリカバリー。 ナンバー付けると雰囲気が変わります 実車の写真と同じアングルで撮ると、ラインが違うのが よくわかります。30年も前のことですから仕方ない 納車場所は、日本橋の一つ星の和食屋さんで。 夕飯をご馳走になりましたが、1ヶ月半ほどかかった 報酬です。 次は別の人から頼まれ紫電改(旧日本陸軍機)を作らな ければなりません。もう私の時間がー!! ]]>